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やっちゃった。 「おいカカシ、ぶーたれてる場合じゃねえぞっ!?」 「うん、そうかもね、でも今は一人にしておいて。俺、ちょっと、もう、駄目かも。」 「だったらこんな公共の場で暗くなるんじゃねえよっ!!ここに入るに入れねえ上忍たちが部屋の前で肩身の狭い思いして突っ立ってたぞっ!っと、今はそんな場合じゃねえ。お前を捜すのにちょっと手間取っちまったからな。ああっ、くそっ、もう5時45分か、ギリギリじゃねえかっ。さっさと立てよっ。」 アスマは俺を無理矢理立ち上がらせた。そして俺の腕を取って歩き出した。俺は連れられるままにとぼとぼと歩いていく。なんだって言うんだよ、あの場にいたんだったら少しくらい俺に同情してくれたっていいんじゃない?そりゃあ、お前には色々と相談とかして迷惑かけたかもしれないけど、もうちょっと人の気持ちを考えようよ。 「おいっ、ここまで来てなに抵抗してやがんだおめーはよっ!」 アスマは俺の腕を放そうとしない。くそっ、さすが上忍だ、俺に引けを取らない。が、ここで負けてしまっては俺はもう落ちる所まで落ちるしか道が残されないんだっ。勘弁してくれよっ!! 「は、放せよっ!俺を道化にしてそんなに楽しいかっ!?」 「誰もお前を道化にしようなんざ思ってねえよ。大体これはイルカが望んだことなんだぞっ!!」 アスマの言葉に俺は一気に力が抜けた。途端、アスマは体をよろめかせた。そしてようやく大人しくなった俺に向かって深く息を吐いた。 「やっと落ち着いたかよ。あの後、イルカに話しを聞いたらお前ら今日は飯を食いに行く約束してたんだろ?イルカは喧嘩腰になったからお前が来てくれないんじゃないかってそりゃあもう寂しげに笑ってたんだぞ!」 「け、けど、あんなに怒って、たし、」 「もう怒ってないとよ、おらっ、さっさと行ってこいやっ!!」 アスマが俺を蹴り出した。俺はおっとっと、と転びそうになりながら校門から見える場所へとやってきた。後ろを振り返ると、アスマが手を挙げて帰っていく後ろ姿が見えた。 「カカシ先生っ!すみません、遅くなりましたっ」 イルカはよほど慌てて来たのか、肩からかけていた鞄のふたを空けたままだった。 「誘っておいて遅れてしまって、ほんっとすみません。」 「いえ、俺も来たのはついさっきですから大丈夫ですよ。」 俺はなるべく自然なように笑って答えた。ここまでお膳立てしてもらったんだ。ここで失敗するわけにはいかないよね。ここでなんとかしないとっ。 「じゃあ行きましょうか。カカシ先生、苦手な食べ物とかありますか?」 俺は一瞬、本当に一瞬だけ泣きそうになった。だが、すぐに表情を元に戻す。仕方ないじゃないか、お互いの苦手な食べ物を知るイルカは、ここにいないのだから。 「天ぷら、苦手なんです。でもそれ以外ならなんでも食べられますから。」 言うとイルカはそうですか、と言って歩き出した。俺はその後をついていく。 ああ、こういう雰囲気、本当に久しぶりだなあ。以前は任務で忙しい時だってたまにこうやって二人して歩いて買い物なんかをしたものだ。イルカは安売りがあるとすぐにスーパーに行きたがった。まるで主婦だね、と言えばまあ、そんなもんだから否定しないぜ、と笑っていたっけね。 「カカシ先生、カカシ先生、」 イルカの呼ぶ声に我に返って俺ははいはい、と返事を返した。 「どうしたんです?お疲れですか?」 「いえ、ちょっとぼんやりしていただけですよ。ところで今日はどこに連れて行ってくれるんですか?楽しみだったんですよ、今日の飯。イルカ先生ってご飯の美味しそうな店知ってそうですし。」 言えばイルカはそうですか?と小首を傾げつつも少し照れた笑みを浮かべた。 「変わった店ですね。よく来るんですか?」 「いえ、来たのは二度目です。でも飯もうまかったし、少々高めの設定ですが、ここでなら二人っきりでじっくりと話しができるでしょ?それにその口布も降ろしやすいでしょうし。」 そう言ってイルカは笑った。そうか、わざわざ気を遣ってくれたのか。 「ありがとうございます。気を遣って頂いて嬉しいです。」 「いえ、誘った者の当然の配慮ですよ。さ、入りましょう。予約しておいたんで席は確保できていますよ。」 イルカに連れられ、店の人に案内されて一室に通された。 「さ、何を注文しますか。カカシ先生は腹空いてます?」 「はい、実は昼飯もそこそこに召集されたものですからぺこぺこなんです。」 「それはよかった。ここ、量が多めなんでがっつり食えますよ。」 イルカはそう言って以前食べた中でうまかったものをセレクトして注文していく。こういうてきぱきした所は以前と変わらないなあ、なんてのんきに思った。当たり前だ、変わったのは俺の記憶がないだけで、他は以前と変わらないと言うのは知っていたことなのに。 「それで、今日お誘い頂いたのはどのような件です?」 グラスの半分くらいまでを飲み干してから俺は聞いた。 「あー、それは、実はナルトのことで、」 あ、そっか、そうだよね。波の国から帰ってきてまだ一度も会ってないって言ってたもんねえ。ナルトのことだったかあ。ちょっぴり残念だけど、それが普通だよね。かつての教え子の上司との接点なんてその位しかないんだから。俺って恥ずかしい奴だな、ほんと。 「そうですね、ナルトの成長から言いますと、まず一番に言えるのが実直なことでして、これは美点であり短所でもあると思いますが、如何せん忍びとしての評価で見ると、」 「カカシ先生、」 「はい?」 急に話の腰を折られて俺はきょとんとしてイルカを見た。イルカは真剣な表情をして俺を見ている。俺は姿勢を正した。こういう顔をする時のイルカは、ひどく真面目な内容を言うと決まっている。 「俺、ナルトのことを聞きたいと言ったのは嘘ではないですけど、カカシ先生のことを知りたいとも思っているんです。だから今日誘いました。俺は隠し事は苦手だし、素直に言いました。」 本当に素直すぎるよ、さっきのナルトの話しじゃないけど、どうしてイルカと言い、ナルトと言い、ここまで素直に言葉が出るのかねえ。 「えーと、それは、ありがとうございます。」 そこに料理が運ばれてきた。どれもうまそうだった。イルカが勧めるだけはあるってわけだね。 「折角なんで食べながら話しましょうよ。」 俺が軽いのりで言うと、イルカは少し困ったような顔をした。ごめんね、話しを中断させちゃって。でも食べ物を粗末にすることには耐えられないはずだ。イルカは案の定、大皿から料理を取り、よそっていく。 |